中小企業診断士試験に合格したからといってすぐに診断士としての登録ができるわけではありません。
多くの合格者とって試験合格後に待つイベントが「実務補習」です。
この記事ではあまり知られることのない実務補習の実態を、経験者である管理人がレポートします。
※なお、実務補習では実際の企業や団体に対しコンサルティングを行うので、守秘義務があり、細かいディティールについては実際の話を脚色した上でお伝えしていきます。
ちなみに実務補修が終わると案件ごとに写真のような「診断報告書」を作成し、診断した企業等に報告会をすることになります。

試験合格後に待つ「実務補習」とは
厳しい試験に勝ち抜き、中小企業診断士試験に合格しても、国(経済産業省)に「中小企業診断士」として登録し、正式に中小企業診断士になるためには、2次試験に合格した後、3年以内に、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
① 実務に15日以上従事する
② 登録実務補習機関における実務補習(15日間)を受講し修了する
①における「実務」は、
- 国、都道府県等、中小企業基盤整備機構または都道府県等中小企業支援センターが行う診断・助言業務
- 中小企業基盤整備機構または都道府県等中小企業支援センターが行う窓口相談などの業務
- 中小企業に関する団体が行う中小企業の診断・助言または窓口相談の業務
- その他の団体または個人が行う診断・助言または窓口相談の業務
- 中小企業の振興に関する国際協力などのための海外における業務
とされています。
要するに公的機関や民間企業で、中小企業に対するコンサルティング業務を15日間せよということなのですが、そのような伝手を持たない多くの合格者は②の中小企業診断士協会が主催する「実務補習」を受講して中小企業診断士に登録します。
管理人もやはり実務補習を受講して診断士登録をしています。
実務補修の概要
実務補修は金土日祝日を利用して行われます。
平日出勤の企業に勤めている方であれば、金曜は有給休暇などを使う必要がでてきますが、これは実務補習の日程の中に、診断先の企業へのヒアリングが含まれるため平日が含まれてしまうようです。
また、コースは「15日間コース」と「5日間コース」に分かれていて、一気に連続して受講する場合には15日間コースを選択し、5日間ずつ1年から3年かけて受講する場合には5日間コースを選択します。
開催時期は例年1月~2月と7月~9月の2回に分けて行われ、開催場所は札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、福岡のみです。
受講料は管理人の場合、5日間コースで約5万円、15日間コースで約15万円でした。
管理人の場合は、試験合格の翌年の、東京で行われた15日間コースに参加し、一気に要件を満たすパターンを選択しました。
なお、15日間コースといっても、ひとつの企業を15日間でコンサルするわけではなく、5日間ワンセットで3つの企業を診ることになります。
また、一応写真のような「実務補修テキスト」なるものも配布され、実務補修をするためのポイントなどがまとめられていますが、実際の現場ではほぼ出番はありませんでした。

実務補習の流れ
実務補習のモデルスケジュールは以下のようなものです。
実施の1週間前~2週間前くらい前
指導員の中小企業診断士からメールで診断企業の概要や、事前準備の指示がくる
初日~4日目
グループ別に打ち合わせや、企業の訪問、診断報告書の作成などを行う
5日目(最終日)
企業等への報告会を行う
モデルケースはこのようになっていますが、これは指導員の方針や診断先企業のスケジュールによってかなり変わってきますので、まあ目安程度と考えておいた方が良いでしょう。
第一回実務補修~ソフトウェア会社編
緊張の第一回実務補習初日

実務補習の初日は、東京の場合まず銀座にある中小企業診断協会にまず集合します。
事前に指示された班ごとにまずは、いわゆる顔合わせということで、名刺交換や挨拶を済ませると指導員から今後の流れについて説明があります。
ちなみにこの「指導員」を担当するのは、かなりベテランの中小企業診断士の方なので、管理人が指導してもらった方々は65歳~75歳くらいの方々でした。
いろいろな経験が豊富な方が多いのですが、共通していえるのはIT系にかなり弱いということだったので、そこは若い受講生が逆にフォローする必要もあるかもしれません。
第一回目の実務補習は、概要の説明の後に企業へのヒアリングする際にどのような役割分担をするかという打ち合わせから始まりました。
診断報告書の作成も含めて、担当部門は
- 経営管理
- 経営環境
- 人事
- 販売
- 財務・在庫管理
- 情報管理
に分かれます。

この時の診断先企業はソフトウェアの受託製造の会社だったのですが、当時管理人はアパレル企業の管理部門に勤めおり、社会保険労務士の資格を持っているということで、「人事」の担当になりました。
この時、同時に全体のリーダー役の班長、副班長も決めていきます。
この他にも銀行勤務の方は「財務・在庫管理」、IT企業勤務の方が「情報管理」など得意分野にはまる場合はそれを担当するケースが多いかれしれません。
このときは、たまたま班員が6人だったので、ちょうどひとり1部門になりましたが、班員が少ない場合(※急遽、欠席などもあります。)、ひとりで2部門担当したり、逆に多すぎるときは班長は担当を持たずに全体調整にあたる場合もあります。
また、得意分野や、やりたい分野がかぶる場合には、ちょっともめるかもしれません(笑)。
担当が決まると、それぞれの担当ごとに指導員に企業の現状を質問し、実際にヒアリングする際にどんな質問をするのかをすり合わせていきます。
指導員は、基本的にその企業を一度は訪問してはいますが、細かい点などは当日直接確認する形になります。
また、可能な範囲で、ヒアリング時に用意しておいて欲しいもの(例えば財務諸表や就業規則など)も指導員を経由して、企業につたえておいてもらうこともできます。
なお、基本的にはヒアリング前に得られる企業の情報は、指導員への質問とホームページ上の情報程度なので、そんなに情報が豊富な状態でヒアリングに臨むというわけではありません。
いちおう質問は用意しておくものの、その場で臨機応変に対応して質問内容を調整する必要もあるでしょう。
初日のミーティングが終わって家に帰った後は、さすがに初回だけあっていろいろな角度からの質問を考えておく必要かあると思い、2時間ほどかけて50個くらい質問を考えてメモしておき就寝しました。
2日目は企業訪問

2日目は企業に出向いてのヒアリングです。
朝、銀座の中小企業診断協会に集合してからみんなで企業へ向かうのですが、銀座から電車で2時間くらいかかる場所にあり、ヒアリング自体は2時間で移動がほとんどを占める一日となりました。
ヒアリングでは、社長に各々が考えてきた質問をぶつけ、その後さすがに場所が遠いということで特にミーティングもせずにその日は現地解散となりました。
3日目~4日目は診断報告書の作成とまとめ
3日目は指導員の事務所に集合しての作業となりました。
ちなみに指導員が自分の事務所を持っている、または持っていても使えるとは限らないので、その場合は中小企業診断士協会の会議室での作業となります。
まずは、前日のミーティングをもとにSWOT分析と呼ばれる、その企業の外部環境と内部環境を強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つわけて分析するところからスタートします。

このSWOT分析は中小企業診断士試験の企業経営理論にも出てきますが、実際の診断の現場で最も良く使われる分析方法です。
ある意味、「とりあえずSWOT分析しとくか」的な居酒屋のビールレベルの定番ツールです。
分析といっても、その企業の強みは○○だと思う、△△は将来的に大きな脅威になるだろう、などと意見を出しあってホワイトボードなどに書き出していくかんじの作業なので、そんなにややこしいことはありません。
そして一通り、意見を出し終えたそこから今後の経営戦略をどうしていくかという提言の内容をディスカッションして、概ねの方向性を出したら、後は各担当ごとの作業となり、自分なりのプランを練っていきます。
この部分は最も時間がかかるため、ミーティングの時間内では終了せずにお持ち帰りでの作業となることが多いでしょう。
管理もその日は、自分の提言を裏づけるデータ収集などもしながら夜中の3時までかかって報告書の担当部分をまとめました。
翌日は、朝から担当ごとに各自の提言内容を発表しあい、指導員や他のメンバーなどの意見も取り入れながら、内容を修正していきます。
なんとか午後の早い時間に各自のパートを完成させ、その後報告書全体をつなげ合わせてひとつのものにする作業を経て、最後に翌日の診断報告会のシュミレーションを行い4日目は終了となりました。
最終日は診断報告会

最終日の朝は、午前中のうちに、昨日完成させた診断報告書をビジネスコンビニできれいに製本してから、診断先企業に向かいます、2時間かけて(笑)。
午後一番で、報告会を開始し約1時間ほどかけて自分の担当した箇所の提言を報告していきます。
提言といってもこちらは診断士試験に受かり立てのひよっ子ですから、そうたいしたことは言えないのですが、それでも社長は
「こんな短い期間でこれだけのものをまとめ上げるなんて、みなさんきっと成功すると思いますよ!」
と持ち上げてくださり、ちょっとは努力が報われた気分でした。
報告会が終わった後の気分は、すがすがしさと伴に
「このキツイの、2回やんのか・・・!」
というブルーな気持ちも確かにあった夏の日だったことをここに報告致します(笑)
第二回実務補修~町のバイク屋さん編
ちょっとだけ余裕のある第二回

第一回の実務補習を終えて約1カ月後、あっと言う間に第二回がやってきました。
第一回と同じく、東京は銀座の中小企業診断協会に集合です。
第二回目の班は6人で、自分以外は金融関係4名に某省庁の役人の方1名と、なかなか重厚な編成です。
指導員の中小企業診断士は今回も超ベテランの先生です。
診断先企業は第一回のソフトウェア企業と打って変わって、「街のバイク屋さん」です。
前回は従業員50名ほどの会社だったのですが、今回はオーナーご夫婦とエンジニアの従業員1名という零細企業です。
ここで問題となってくるのが、実務補習の担当部門制です。
一応お決まりで、経営管理、経営環境、人事管理、販売管理、財務・在庫管理、情報管理と担当分けをするのですが、管理人は第一回に続き人事管理部門を任命されました。
とはいえ、3名の企業で人事管理もへったくれもないような・・・。
ここらへんは診断先の企業によっては、部門を減らすなど、中小企業診断協会もちょっと融通をきかせていただきたいところです。
いきなり初日からヒアリング

今回は、企業訪問をしてのヒアリングは相手先の都合で、いきなり初日の午後に設定されていました。
なので、朝集合して、ざっと打ち合わせを終えるとすぐに東京某所の診断先のバイク屋さんに向かいます。
これが初回だったらちょっとあせるところですが、2回目ということもあって、しかもあまり質問するネタもないこともあって(笑)、心にはちょっと余裕もあります。
ヒアリングではオーナー社長から、バイク業界のことや、大手のバイクメーカーのノルマ販売ノルマの厳しさなどに加えて、昔の武勇伝などの興味深い話も聴けて中々楽しいひとときでした(笑)。
ヒアリングが終わると初日は早めの解散となりました。
ちなみに初日にヒアリングなのですが、診断報告会は4日目の夜というイレギュラースケジュールだったので、ミーティングや診断報告書の作成に使うことができるのは2日目~3日目の午前中までという結構タイトなかんじでした。
帰宅すると、第二回ということもあり、今後の流れもなんとなくわかっていたため、ざっくり聴き取りの内容を整理したら早めの就寝です。
中々収束しない議論

2日目は中小企業診断協会で朝からディスカッションです。
まずはお決まりのSWOT分析をさっと終えると、喧々諤々の議論です、といきたいところですが、実際問題として、街の零細なバイク屋さんの「成長戦略」といっても打つ手は中々限られます。
時間的な余裕がない状況ですが、中々意見はまとまりません。
しかも、今回の指導員の先生が中々シビアな方で、我々の意見に対する駄目出しもビシビシきます。
ちなみに、その頃はFACEBOOKが流行り始めたころで、SNSを使った広告戦略の話になったとき、指導員の先生が「SNS」という言葉を知らず、無理やり「社会交流サービス」という言葉に直されて診断報告書に書かされたということは、ここだけの秘密です。
まあ、それだけ超ベテランの先生だったということです(笑)。
そんなこんなで、2日目はブレーンストーミング的な感じで終わりました。
それでも3日目になるとさすがに締め切りもせまってくるので、先生の駄目だしも段々妥協含みになり(笑)、方向性が見えてきます。
そうなると早いもので、ほぼ診断報告書の内容は固まり、後はお持ち帰りで執筆という前回同様の流れとなりました。
4日目は各自の原稿を発表しあい、内容調整の後に原稿を合体させ、夕方に急いでプリントアウトして製本作業までもっていき、そのまま診断報告会に向かいます。
診断報告会inファミレス

ちなみに、いろいろ都合でこの時の診断報告会はファミレスの片隅で行うことになりました。
中々、オーナーの仕事が終わらず、ファミレスでみんなで3時間くらい待機したあとは、資料をオーナー夫婦に見せながらプレゼンです。
指導員の先生が熱血なので、発表の仕方も大声でハイテンションな感じを要求されたのですが、さすがにファミレスでそれはきつかったです、というかあの時の周りのお客さんごめんなさい(笑)。
報告会は1時間ほどで終わり、無事解散とあいなりました。
最終日はやることなし!
通常最終日は診断報告会を行うのですが、今回はそれも済んでやることもないので、昼すぎに中小企業診断協会に集合して雑談です(笑)。
診断報告書を指導員が協会に提出する受付時間まで、楽しく過ごし実質4日間の実務補習という感じでした。
なお、4日目の朝まで徹夜してやっと5日目の診断報告会に間に合うというような班も少なくないため、今回のこのようなケースは超まれだったのだと思います。
第三回実務補修~商店街診断編
ついにきた「商店街診断」

第二回が終わって、最終回となる第三回の実務補習はわずか2週間後にスタートです。
結構余裕もあった第二回と違い今回は、事前のメールで企業診断ではなく、「商店街診断」だということが分かっていました。
いろいろな方から「商店街診断が一番キツイ」という情報を得ていた管理人は、やや緊張の面持ちで中小企業診断協会へ向かいます。
なぜキツイのかと言えば、商店街診断には商店街を歩く人へのアンケート調査や、通行量調査など、の日雇いバイト的な肉体労働フィールドワークが含まれるからです。
また、そのため人数も多く必要なので商店街診断は2班合同で行われます。
企業診断と違い、特にヒアリングはなく、初日はアンケート調査を行う上での注意事項や、役割分担などを決めます。
ちなみに3回目ともなると、管理人と同じく連続で実務補習を受ける方もいて、顔なじみの方も数名いて、その点ではちょっと心強かったです。
基本的に1時間交代で、商店街のいくつかの場所に分散して、アンケート調査と通行量調査を交互に行うスケジュールです。
時間帯は10時~18時までの8時間で、これを実務補習2日目の土曜日を使って行うわけです。
朝から晩まで商店街をうろうろ

ある意味今回のメインイベント的な商店街調査の朝は、9時に商店街の事務所に集合して、各自そこから散らばってスタートです。
天気は快晴で、気温は30度オーバーですが、雨よりはましと思って自分をふるい立たせます。
ちなみに管理人はこのようなバイトをしたことはなく、街行く人へのアンケート調査は人生初体験です。
普段、完全にアンケート調査の人にそっけなくしている自分ですが、立場逆転です。
始めてみると、やはり事前の予想通り若い方はほとんど立ち止まってくれず、シニアの方のアンケートばかりが手元にたまっていきます。
さすがにそれもまずいので、後半はがんばってヤング~ミドル層のみにターゲットを絞ってアタックです。
もちろん打率は減りますがこれも仕事?と思って、1時間おきの通行量調査で士気を回復させながらなんとか、その日の終わりまでに、数十件のアンケートを回収することができました。
なかなかキツイ一日でしたが、1日中商店街をうろうろするという体験は初だったので、貴重な体験ではありました。
なお、街行く人は冷たかったのですが、商店街の人たちは「がんばって!」と声をかけてくれてやさしかったです(笑)。
まとめ作業は結構簡単
3日目と4日目は、診断報告書の作成です。
とはいっても企業診断と違い、作業の半分以上がアンケート結果の分析や、通行量調査の集計なので、SWOT分析をして提言もまとめるのですが、全体としては報告書づくりは、企業診断と比べてさくさくと進みます。
フィールドワークがキツイ分、デスクワークの負担は軽いので、管理人的には「うまくできてるもんだな」と思ったのでした。
和気あいあいの報告会

最終日の報告会は、商店街の事務所に主要なお店の店主の方々10名ほどに集まってもらい、診断報告の内容を報告します。
企業の会議室での社長への報告と違い、商店街の事務所での報告はなんだか商店街の催しもののミーティングに紛れこんでしまったようなほっこり感があり、とても和気あいあいとした雰囲気の中で進みます。
まあ、診断報告といっても半分が通行量などのデータ(この時間帯には自転車の通行量はこれくらい等)の報告なので、結構眠たかったというのが本音です。
それでも、そのデータだけでも商店街の方にとっては貴重なものなので、結構感謝していただき、無事、管理人の実務補習最終回は終了したのでありました。
中小企業診断士実務補修体験談まとめ

振り返れば、第一回のIT企業、第二回の街のバイク屋さん、第三回の商店街とバラエティーにとんだ診断経験ができた、実務補習となりました。
別に意図的にそうなっているわけでもないらしく、人によっては三回中、商店街二回ということもあるそうなので、そこら辺は運次第のようです。
とかく士業の研修というと、形式的であることも多いのですが、実務補習は実際の企業等に対して行うため、緊張感と責任感が生じる実践的なものでした。
実務補習を通じて、普段なら知り合えないような方々と、いろいろな場所を訪れて議論を重ねた経験は、確かに自分のスキルのレベルアップにつながったなと思います。


